おれにゴタクを並べさせる世の中は間違っている

いつ死ぬかわからないので過去に書いたモロモロの文章をまとめてみました。

●文科系のためのKEIRIN入門⑤ 「誰が風を見たでしょう?」2013年9月13日 

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さて、前回は「ライン」というのはどういう思惑で決まるか、について説明しました。出身地と「絆の濃さ」、そして何を目標に走るかによって選手は「打算的に」ラインを作るのでした。模擬レースとして、AKBを使って、以下のようなラインになりました。

 

★大宮競輪決勝 4周 先頭固定競走


①指原(大分/別府) 追込
②大島(栃木/宇都宮) 追込
❸渡辺(埼玉/大宮) 逃げ
❹柏木(鹿児島/根占) 逃げ
⑤篠田(福岡/久留米) 自在 
❻松井珠(愛知/名古屋) 逃げ
⑦松井玲(愛知/豊橋) 追込
⑧高橋(東京/立川) 追込
⑨小嶋埼玉/大宮) 追込


<ライン>  ❹①・②・❻⑦・⑤・❸⑨⑧  
 

 

では、早速レースの展開を考えてみましょう…の前に、まず、そもそも競輪のレースとはどういうルールになっているのかについて。

通常、レースは2000mです。想定した大宮は一周500mですから、4周することになります。1周、2周とゆっくり走ります。

そして、残り1周半の段階で、皆さんご存知「ジャン(打鐘)」が鳴ります。ここから選手たちは一気に加速し、それぞれのラインが有利な位置を取り合います。

 

ここで重要なのは、ジャンが鳴ってもまだラインによる「団体戦」である、ということです。


個人ではなくあくまでライン単位で前の位置を取り合って、最後のゴール前のコーナーまではラインは協力し合います。前に触れた、先頭選手を守って番手の選手は他のラインを妨害する、などのバトルが繰り広げられるのです。


この時、絶対の不文律としてあるのが「最終直線まではラインの前の選手を追い抜いてはイケナイ」というものがあります。別にやっても失格にはならないのですが、これは選手間、および客との義理を欠く行為になります。

最終直線に入る所でこの契約は解除になります。そこからゴールまでの直線は、前を抜こうがどうしようが勝手です。

 

ところで、最終コーナー前に番手の選手が先頭選手を抜くこと(番手捲り)は逃げ選手との契約違反であり、仁義としてやってはいけないという不文律があるのですが、例外的にやっていい場合があります。

①「前が弟子で番手が師匠」
②「前の選手が若手で番手が大御所(特に地元)」

の場合です。これは客も選手も納得するのです。


時に、番手捲りを打ってもいい立場なのにそれをしないで仁義を果たし、最終直線だけで勝利する選手がいます(2013年寛仁親王牌の金子と深谷の師弟がそうです)。こういう選手は客からも選手からも信頼と尊敬を受けることになるのです。これは本当に素晴らしいレースでした。


デビューから18年!金子貴志が悲願のG1初制覇!第22回寛仁親王牌【シクロチャンネル】

 

さて、お待たせしました。展開想定、つまり「車券を当てる」ことを考えます。


まず最初に予想しなければいけないのは、ジャンがなってどのラインが最初に先頭に飛び出すか、つまり「先行逃げ切り」を狙っているのは誰か?ということです。

先行逃げ切りは相当な脚力と持久力が必要になります。そして、そのまま逃げ切ることはかなり困難であり、早い話がかなりリスキーです。他の選手はその間に力を温存しているわけで、力の消耗したゴール前で抜かれる可能性は高い訳ですから。でも、誰かが行かないといけない。牽制し合ってダラダラやると「敢闘精神欠如」という重大な失格になります。


誰が最初に先行するか、これが予想の第一歩です。


通常参考にするのは競輪新聞「B回数(バック回数)」で、最後の半周を先頭で走った回数の数です。これは新聞に書いてあることなので、文科系らしく「なぜ逃げるのか?」について説明します。

 

明らかにリスキーな「先行」に挑むには条件と理由があります。

 

条件①「とにかく、自分の脚力なら勝てるという絶対的な自信がある」
これは当然です。他の選手が弱かったりすれば尚更そうなります。しかし、これは限られた選手と限られた条件のレースにしか与えられないと言えます。

 

条件②「若い選手で「自分は一生懸命走る選手です」と選手や客に積極的にアピールしたい」
着順は関係なく、とにかく積極性があることをアピールする。かつての企業における新入社員や、若手芸人のメンタリティです。

 

条件③「後ろに地元のスター又は名選手・ベテランがついている」
とにかく行けるところまで前で走って、ギリギリで後ろの大御所に有利な形を作って最終直線へ。
これは「犠牲的逃げ」などと言われます。②に近いのですが、こうして地元や大御所に対してアピールして、悪く言えば「恩を売る」、よく言えば「評価を上げる」意味があります。

 

条件④「自分のラインが長く、後ろの選手の技術に信頼が置ける」
これが一番現実的かつ合理的な理由です。自分の後ろに1人しかいないと、他のラインは2人抜くだけで捲れるし、ブロックは一発勝負になります。後ろに2人なら他のラインは3人抜かないと捲れないし、二人が妨害してくれるし、3人ならさらに…となります。

 

以上の4点をふまえて、さきほどのラインに当てはめてみましょう(さらにここに「選手の性格」というものも加味するのですが、「人読み」は応用編なのでここでは割愛します)。

 

条件①は結構特殊なので、ここでは検討しません。アイドルに話を合わせれば、「1000年に一人の美少女」みたいなそういう存在の話ですので。

ですから、主に②、③、④が条件になります。

 

条件②「アピールしたい」
若くて、評価が急上昇していて、これから上がって行きたいと野心を秘めている逃げ選手は誰か?と考えると当然、一番若くて人気が急上昇した❻松井珠となります。脚力もあり、新鮮な注目をされているからこそ、先行勝負の可能性は大きいです。

 

条件③「後ろに地元orスター選手」
これの「地元」に該当するのは❸渡辺です。しかも後ろは⑨小嶋という地元の先輩、ファンも多い中で先行するのは可能性が大きいと言えます。
「スター選手」ですと当然、①指原を引っ張る❹柏木です。直近のタイトルホルダーを引っ張ることをせず、自分だけの競走をしようものなら、競輪場の紳士たちから手厳しい「アドバイス」が飛ぶことになります。これは「地元」の❸渡辺にも言えます。

 

条件④「自分のラインが長く、後ろが巧者」
これは当然❸渡辺です。他のラインは2車ラインなのに対し、埼京ラインは❸⑨⑧の3車ライン。しかも三番手には度胸もあり義理堅い⑧高橋がついています。他のラインが捲って来ても、この巧者二人が後ろにいればかなり安心できます。

 

以上の検討から、先行する選手を予想すると、二つの条件(③、④)をクリアし、なおかつ地元の大きいレースの決勝であるということから、❸渡辺の「埼京ライン」が先行、という予想が有力になります。

次に考えられるのは最若手で勢いのある❻松井が度胸一発(条件②)で先行の「中部ライン」でしょう。

❹柏木の「九州ライン」は、逆にまくりに賭けるしかないと思います。そもそも、彼女自身が❻松井ほどの若い脚力に勢いがあるか?と。そうなると彼女はこう考えるはずです。

 

「とにかく、❸のラインと先行勝負は避けて先に行かせて、その後ろにくっついて行こう。❸の脚力なら捲れるだろう。ただ、勢いのある❻を先に行かせると捲れるか不安だから、❻より後ろには絶対にならない!」 

 

 

便宜的に「単騎」の2人は除外して、競輪新聞の最終バック予想図を書くとこうなります。

 

 

         ←まくり❻⑦
          ←まくり❹① 
    ←先行❸⑨⑧ 

 

 

 

 

こうして、覚悟を決めて先行した❸渡辺の「番手」にいる⑨小嶋は、最終直線に到達する頃には「風除けしてもらって脚力は温存され、さらに前の方にいる」という有利な状況になるわけです。ですから、通常の予想で本命の印が打たれるのは「先行の番手」になることが多いのです。

 

前回書いた「強い逃げ選手の番手が一番有利」というのはこういうことです。

 

ところで、、残る大御所二人、「競り」の予感漂う②大島と、位置を自在に決めてかかる⑤篠田ですが、ラインに位置のない不利な状況でどのようなレースをするのでしょうか。

 

といったところで、次回に。(2013年9月13日)

 

【2020年6月追記】このレース展開は昔ながらの「競輪道」に依った「競輪の様式美」のようなものなので、現代において先行条件は多少の変化はあるかもしれない。しかしながら、何事も「基準」を定めないととっかかりがないというものだ。