おれにゴタクを並べさせる世の中は間違っている

いつ死ぬかわからないので過去に書いたモロモロの文章をまとめてみました。

●文科系のためのKEIRIN入門④ 「風は吹いている」2013年9月13日

f:id:take-zo:20200626200506j:plain



のっけから重要なことを言います。

競輪で一番有利なのは、強い逃げ選手のすぐ後ろである。→「番手」と言います。

 

一見すると一番強い逃げ選手が一番有利に思いますが、考えてみてください。逃げ選手は逃げ続けないと勝てませんから、最後の1周ちかくをほぼ全力で走ります。しかも彼は風を受けていますからリスクが大きい。


一方、その後ろの選手は逃げ選手のスピードについて行くだけで、風を受けません。たとえ逃げ選手が自分より能力があっても、風の抵抗がない分追走が可能なのです。しかも脚力は残っている。その状態で最終直線に来れば、前の選手はかなり消耗していますが、後ろの選手はまだ残っていてもう一度踏み込める…と。

つまり、追込み選手は「強い逃げ選手」の後ろに何とかして入りたい。
かつてはこの位置を巡って格闘技さながらの取り合い(競り)が繰り広げられましたが、現在ではこの位置を戦う前にあらかじめ選手間で決めて、例によって「コメント」で発表するのです。

それを「ライン」と言います。このラインの決め方は「所属する都道府県」が基準となり、同じ地域、同じ練習仲間、などの絆で決まります。

 

と、言うことで前回の宿題の答え合わせです。

 

大宮競輪 
指原莉乃(大分/別府) 追込
大島優子(栃木/宇都宮) 追込
渡辺麻友(埼玉/大宮) 逃げ
柏木由紀(鹿児島/根占) 逃げ
篠田麻里子(福岡/久留米) 自在 
松井珠理奈(愛知/名古屋) 逃げ
松井玲奈(愛知/豊橋) 追込
高橋みなみ(東京/立川) 追込
小嶋陽菜(埼玉/大宮) 追込

※カッコ内は所属の都道府県と練習してる競輪場です。

 

忘れてましたが、大宮競輪場で開催してます。これが重要です。

まず、先頭を走る若い「逃げ」選手は、

渡辺麻友(埼玉/大宮)
柏木由紀(鹿児島/根占)
松井珠理奈(愛知/名古屋)

の3人。


本当は逃げの力もある「自在」の大御所、⑤篠田麻里子(福岡/久留米)も一応入れてもいいかと思いますが、純粋な逃げ選手という意味で、③④⑥の三人がラインの先頭になります。


では、ラインと展開の予想をして行きましょう。(※注、ここでの「先輩」というのは年齢のことで、何期生とかは筆者は知りませんのでそこんとこよろしく)

 

渡辺麻友は地元、ホームバンク大宮で、埼玉の選手です。当然、同県で同じ大宮競輪場で練習している先輩である⑨小嶋陽菜が彼女の「番手」になります。❸⑨は決まりました。ここは地元の意地、本命ラインでしょう。

 

松井珠理奈は愛知の選手で、同県で先輩の⑦松井玲奈が番手。ここもすんなりでしょうが、一点気になるのは❻は名古屋、⑦は豊橋と練習グループは違うので、埼玉ラインの二人程の絆はないかもしれない…という所です。ちょっと覚えておいて下さい。

 

さて問題はここです。九州の3人。
柏木由紀は鹿児島の選手です。同県の選手はいませんが、九州地区の追込が二人います。①指原莉乃と⑤篠田麻里子です。さてここが難しい。どちらが番手に入るか。この場合、「格」で決めるか、「年齢」で決めるかという問題があります。
①指原は、最近ビッグタイトルを取ったスター選手であり、やはり勝ちに行きたいし、車券的にも人気が予想されます。「格」でここは①指原が❹の番手でしょう。

❸渡辺-⑨小嶋 →埼玉ライン
❻松井珠-⑦松井玲 →中部(愛知)ライン
❹柏木-①指原 →九州ライン

 

さて、ここまでは決まりました。

残るは大物3人。

大島優子(栃木/宇都宮)
篠田麻里子(福岡/久留米)
高橋みなみ(東京/立川)

 

がどういう戦い方でくるか、です。

ここからは彼女らのアイドルとしての人気やら華やらAKBの映画などで垣間みる人間性やらを独断で能力に置き換えて、競輪選手の立場として妄想します…「妄想」これもまた文科系的なキーワードです。

 

まず、多分すんなり決まるのは⑧高橋みなみ(東京)。
彼女は東京の選手で、競輪のラインには「埼京ライン」というのがあります。埼玉と東京は同地区さながらの絆があります(多分、立川と西武園が近接していることに由来します)。
彼女の親分肌な性格上、まず地元に花を持たせることを考え、なおかつ「埼京で勝つ!」という使命感から、埼玉ラインの三番手に収まるでしょう。

 

さて、九州ラインの番手を譲った⑤篠田はどうするか。
方法は2つ。「九州の三番手」または、ラインを組まずに位置を探して走る「単騎」のどちらかになります。


ここで注目したいのは⑤篠田が「自在」であるということ。この選手はベテランながら逃げられる脚力と、位置を奪うテクニックの両方がある老獪な選手なのです。となると、この選手は誰かの番手に入ればかなり有利ですが、一人でも「風が切れる」能力もあります(実際の選手で言えば浅井康太や平原康多なんてのがそうです)。

 

さらに、大物としての風格もあり、やすやすと三番手など回るのはどうなのか。福岡のボスがそこまでして大分の①指原に勝たせたいか…となると、彼女は多分「位置を見て自在」の単騎戦になると思います。

 

そして残るは圧倒的な人気を誇るマーク屋、引退した前田敦子の番手からタイトルを量産した、②大島優子(栃木/宇都宮)です。

このレース仮に⑨小嶋が出ていなかったら、❸渡辺の番手は大島で確定です。まず「関東」という絆で埼玉の後ろに入れるし、格から言っても当然です。

あるいは、このレースが地元宇都宮で開催されていれば、❸②⑨はありえます。しかし、地元開催の地元ラインの番手を奪うのは「競輪道」に背く行為です。

だからといって、曲がりなりにもタイトルホルダーであり、かつては黄金時代を築き、現在でもトップ人気の選手が三番手というのは…。逃げ選手の番手からの差し足が持ち味の「鬼脚」です、そりゃあ逃げ選手の番手につきたい…

②大島は勝ちたいが、位置がない。
ここで出て来るのが、競輪の競技としての最大の面白さ、「競り」です。行き場のない追込み選手が、他のラインの力のある逃げ選手の番手の位置を奪いに行く戦法です。

競りかける条件は、

①強い逃げ選手の後ろ → 取れれば有利だから

②弱い番手選手 → テクニックに劣る番手選手なら競り落とせるから 

③同じ地区や地元ラインは避ける → 人間関係として今後の連携に支障が出るから

 

となります。
③がすごく特殊で、競輪が「義理人情」のスポーツだというゆえんです。

 

では、上の仮想レースだとどこになるか。


まず③の「同地区、地元はダメ」の条件から❸渡辺⑨小嶋⑧高橋のラインはない。これをやってしまうと仲間割れとなり、今後のレースで信頼が失われます。

となると、①の「強い逃げ選手」、つまり若くてイキのいい選手で言えば❻松井珠でその番手⑦松井玲に競り、②の「弱い番手選手」で言えば…何となく不器用そうな①指原に競り、のどちらかになります。

この時、②大島は多分こんな感じでコメントするのです。「位置を見て自在」。ハッキリ言う場合もあります(例;「柏木君にジカ」「柏木君の番手勝負」)

 

これが同じ単騎(ラインを組まない)でも⑤篠田とは意味が違うのです。

⑤篠田は元が「自在選手」ですから自分で突っ走って捲ることもできます。だから、前の方のラインの後ろを追走してタイミングよく飛び出せば勝負になる。だから、誰かの番手を奪う可能性は低いのです。

一方、②大島は「追込選手」です。追込みの選手は最終直線の一瞬で勝負を決めようとします。「位置を見る」というのは、どこかの場所を取りに行けたら行く、ということです。

それを客は読み取って、「大島が競るのは、中部か?九州か?⑦松井と①指原はどっちが弱いか?」と競輪新聞のデータで推理するわけなんですね。

 

ということで、ラインが決まりました。

 

(周回) ← ❹①・②・⑤・❻⑦・❸⑨⑧  

 

ちなみに、おれの展開想定では、多分⑦松井玲に競りに行くと予想します。その理由は…また次回。次回はこのあとどういう展開になるかを各選手の立場に立って妄想してみます。そして、ついに「競輪予想の基本」に移ります。予想とは、その展開で誰が一番有利なのか?を考えるということ、なのです。(続く)

(2013年9月13日)

 

【2020年6月追記】AKBとかそこまで詳しくないので異論のある向きもあるでしょうが、概ねイメージに近いと思うんだけどね。書いてて親和性の高さに驚いた。