おれにゴタクを並べさせる世の中は間違っている

いつ死ぬかわからないので過去に書いたモロモロの文章をまとめてみました。

●文科系のためのKEIRIN入門③ 「勝つのは誰だ、勝利とは何だ」(2013年9月12日)

まず、この2009年の競輪CMをご覧ください。

 


KEIRIN CM 勝つのは、誰だ。勝利とは、何だ。

 


このCMは、色々な立場の人を競輪選手に、そして彼らの人生をレースに見立て、「自分たちが何を目指して走っているのか」を語らせているという、実に味わい深いCMです。

さて、若干大げさな、見方によってはナルシスティックなイメージCMとしてかなり優秀でカッコいいものではあるのですが、実は競輪という競技の特徴をかなり巧く伝えているのです。

このCMに出てくる彼らの言葉…

「大きな成功をつかんでこそ人生だよ」
「ささやかな日々にも誇りはあるんだ」
「愛する家族が幸せならそれでいい」

…というセリフは何なのか?ということです。

少しやったことある人ならわかると思いますが、これは競輪選手が前日に出す「コメント」を美的にパロディしているんですね。競馬と決定的に異なる「人間がやっている競技」の粋は、選手が自分の得意な戦法を宣言し、レースについてどう走るかを前日に言葉で表明する、まさに「言葉」のスポーツであるということなのです。走ることが仕事であるならば、それは彼らの人生とか生き方の表明と言えるのかもしれません。

 

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前回のおさらいをします。

競輪選手には自分の脚質によって、得意な戦法による分類が大きく分けて2つありました。

ラインの先頭を走って風に負けない脚力をもつ「逃げ」選手。

逃げの選手の後ろについて行きながらゴール前での勝負に賭ける「追込」選手。

 

せっかくなのでもう少し詳しく書きましょう。「逃げ」の選手にも2種類あり、「先行」と「捲り」があります。

「先行」というのは、最後の1周くらいをダッシュして後続を離し、そのまま逃げ切りを狙える選手で、持久力と瞬発力を併せ持つ、相当な能力が必要になります。なかなか決まることは難しいですが、先行押し切りは競輪の華といえます。そして、主に若い選手がこれを目指します。

「捲り」というのは、先行選手のラインが前に出て走っている間にわざと後ろに引いて追いかけて、最後の半周くらいで一気にスパートして逆転を狙います。これもこれで華々しく、カッコいい。この選手の場合、持っている脚力をわざと出し惜しみする必要があります。

 

というか、一気に出してしまっては途中で失速してしまう可能性がある、ともいえます。先行選手に比べて瞬発力やダッシュ力はあれど、持久力はやや劣るのです。

 

混乱するといけないので、もう一度あの例を出します。

 

←❶(先行)②③  ❹(まくり)⑤⑥  ❼(まくり)⑧⑨

 

❶の選手は最後の1周半くらい前(この時にジャンが鳴ります)からスピードを上げて行きます。が、❹の選手はそこまでの自信がない、となるといきなり抜かしにかかるのではなく、まず③の選手の後ろにくっつくことを一般に狙います。前回も申し上げた通り、前に選手がいるのは風よけになるので脚を温存できるからです(❼の選手も同じく⑥の後ろにつこうとします)。

この温存したパワーを、最後の半周くらいで一気に出して前のラインを抜きにかかるのが「まくり」です。❶の選手も相当でない限り徐々に失速しますので、その失速の瞬間と自分のパワーが最高潮に達するタイミングを測っているわけです。

 

さて、長くなりましたが「❶が先行、❹がまくり」こういうレースの展開になったとします。実はこういう展開については、競輪新聞にすでに書かれているのです。
それが「選手の前日コメント」なのです。軽く作ってみます。

 

❶「先行。」  ②「❶の番手。」  ③「❶ラインの三番手」
❹「自力。位置を見て自在に。」 ⑤「❹くんに任せました。番手の仕事」…

 

みたいな感じでしょうか。

つまり、競輪のレースというのは「自分たちはどういうレースをするか」を各選手が言葉にして表明するのです。当然、「先行」を宣言するのが2人になる場合もあります。この時は激しいレースになります。

さらに、二番手の選手が争うこともあります。例えばこのレースで⑥の選手が他の選手と関係が浅かったり、どうしても勝ちたかったりする時、強力な❶の選手の後ろを奪いに行くこともあります。これを「競り」といいます。こう言う時は「❶の後ろをジカで」なんてコメントします。つまり、②と「番手の取り合いをしますよ」ということです。「ジカ」なんて言わない場合も多いのです。「位置決めずに自由にやります」なんて言う風に「におわせる」ワケです。

上のコメントは通常のレースの時で、これが大きなレースの決勝になるとかなり長いコメントが出ます。たとえば「○○くんが後ろで前に失敗したけど…」とか言わなくてもいいことを言ってるときは「ああ、相性悪いんだな」と思って見たり、「師匠の○○さんの前で走れるなんて…」みたいなことを言ってる時は「師匠勝たそうとしてんな」と思ってみたり、ここまでくるとそれこそ『あまちゃん』について毎日わーわーと分析しているのと同じような面白さがあるというものです。ましてや、継続してレースを見ていれば、それこそ「連載小説」のような面白さになります(先だって書いたこの間の親王牌の金子/深谷の師弟ワンツーなど、その際たるものといえます)

CMに話を戻せば、あの中に出て来るホストの7番車の弁「いつだって今の自分がすべてだよ」というのは、典型的な「先行選手」の思考と言えます。脚があるうちに(若いうちに)突っ走らないで(稼がないで)どうする?という人生観。

うだつの上がらないコンビニ店員のフリーター8番車の「ここはおれの居場所じゃない」というのは、ライン3番手に納得いかずに「位置決めず自在」を狙う選手の思考と言えます。「自由」というものを至上としスキを見て一発を狙いたい…という人生観です。

長くなりましたが(今さらかよ)、おれが「文科系こそ競輪にむいている」というのは、こういう「言葉」の持つ要素が非常に大きいスポーツでありギャンブルである、ということなのでございます。 (つづく…面白くなって来たから) (2013年9月12日)

 

【次回までの宿題】

以下の条件と選手で、「ライン」の予想をしてみて下さい。位置は問いません。

<ラインの条件>
①「逃げ」選手が先頭 
②同県→同地区→練習仲間→個人的な絆 の優先順位で決まります。
③2番手、3番手などの細かい順は「格」又は「キャリア」で決まります。
④「自在」とは、逃げの脚も追込みのワザも両方ある選手。→ここが応用編!

※「同地区」の定義
北日本(北海道/東北) 
②関東(細かく言うと茨城栃木群馬新潟の北関東と、埼玉東京の埼京の二つ)
南関東(千葉、神奈川、静岡)
④中部
⑤近畿
中四国
⑦九州

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指原莉乃(大分/別府) 追込
大島優子(栃木/宇都宮) 追込
渡辺麻友(埼玉/大宮) 逃げ
柏木由紀(鹿児島/根占) 逃げ
篠田麻里子(福岡/久留米) 自在 
松井珠理奈(愛知/名古屋) 逃げ
松井玲奈(愛知/豊橋) 追込
高橋みなみ(東京/立川) 追込
小嶋陽菜(埼玉/大宮) 追込

※カッコ内は所属の都道府県と練習してる競輪場です。

(2013年9月11日)

 

【2020年6月】当時AKB全盛期で、ネットに「AKBで出走表作ってみた」みたいなのがあって、それを使ってみた。競輪とグループアイドルは親和性が高い。あと、「勝利とは何だ」のCMの鋭い点として、4、6、8の人物が基本的に「くすぶっている」人であるという設定であることだ。