おれにゴタクを並べさせる世の中は間違っている

いつ死ぬかわからないので過去に書いたモロモロの文章をまとめてみました。

映画『ヘルタースケルター』 ~沢尻エリカ=まじめ論~

 

ヘルタースケルター

ヘルタースケルター

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

「笑い声と叫び声は似ている」
おれの考える岡崎京子作品の通低音はこの言葉がまさに言いえていて、一種の「対位法」でできてるとおれは思っているわけです。つまり岡崎ロジック「○○と××」。「愛と資本主義」「平坦な生と平坦な死」「美と醜」…
で、『ヘルタースケルター』ってのは何と何の対位法かなとおれなりに考えてみたところ、これは「見るものと見られるもの」だろうと思うわけです。見られる仕事をするりりこ、しかし元々は「誰からも見られなかった」デブでブスだった。「見られることができなくなったら死んだも同然」なりりこがマネージャーにセックスを見せ、マネージャーのセックスを見て「何でそんなことしかできねえかな?」と言ったりするシーンに顕著で、りりこは「見られる者視点」でものを見ることしかできないヤツであり、「みんなが私のことを知っていても、私はそいつらのことを知らない」ことをわかってるヤツ。で、原作ではりりこが若いモデルのこずえを初めて「見る側」の視点で見てショックを受ける、ということになるのですが…岡崎論は長くなるし面倒なので一応止めておく。

で、映画なんだけど、世評は結構シビアみたいですが、おれは、作り手に大変失礼なもの言いを承知で言うと「ようがんばりましたなぁ~」って感じ。案外、悪くなかったです…って言い方あんまり好きじゃないんだけども、蜷川実花の「あの」感じがちょいウザいのも正直あるんだけども、コピーの「最高のショーを見せてあげる」の「最高」は外した上で、十分な作品ではないかと。「見る/見られる」の対比、ラストシーンのフラッシュの音が「別の何か」に聞こえてくる演出、つまりフラッシュは「別の何か」と同じなのか…という錯覚を与える迂遠な演出など(ただ道具立てがちょっと安っぽいんだけど)、結構好きなところも多い。

が、言いたいこともある。何でおれごときが言わねばならんのかわからないが。

まず、沢尻エリカ
彼女のパーソナリティ(と、されているもの)はまさにリアルりりこである、という着想。そして彼女も記者会見でやらかしたヤツであることから、何かと言うと舞台挨拶シーン、インタビューシーン、記者会見シーンが出てくる波状攻撃にプロレス的視点では楽しめたし、製作者側も「勝ったな」と思ったろうし、実際興行として勝ったと思う。あ、あとヌードも結構でした(ただ、りりこはもう少し細いと思うが)。

演技も老人マスコミの言う「体当たりの演技」…なんだけども、これはおれの見方が悪いのかな、正直、彼女の演じる狂気は「堅い」。というか、なんとなく古い。まぁキャラが古いタイプの狂気を持つキャラだからしょうがねえのか、と思いつつも『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンとまでは言わないが、なんかこう類型的というか、狂気が想像を超えないんだよな。りりこじゃなくて沢尻エリカなんだ。
(まぁ、この「なんか古いような」って感じは映画全体にあって、渋谷の描き方とか、若い女の子の喧騒とか、「え?これ2012年?」って感じはある。原作が10年以上前だからしょうがないんかな)

で、沢尻エリカがりりこになってないのはなぜか。もうあくまで印象で直観なんだけど、沢尻エリカって人はマジメなんだ。マジメすぎるくらいにマジメ。だから、狂気の演技も非常に「マジメに」狂気やってんだ。だから、彼女が体当たりなのは伝わりつつも、演出側がもう少し工夫すりゃいいのに、と思う。そうすりゃ彼女はマジメだからちゃんとこなすはず。
ヘンな話、ヌード見ても「マジメないい体」なんだよなw『冷たい熱帯魚』の神楽坂恵と対照的。何言ってんだおれ。

余談だが、彼女のあの一連の騒動ってのは、多分マジメさから来てるんじゃないかと思うとちょっと合点がいく。だから記者会見でアタマきたら答えないし、本人が書いてるかしらないが、例の「別に」騒動のあとにブログで「諸悪の根源は私にあります」って書いたのを見たときに、「『諸悪の根源』って!」って面食らった覚えがあるんだが、もしこれが本人の弁だとしたらマジメだと思う。自分の知ってる言葉の範囲で一番フォーマルな謝罪が「諸悪の根源」だもの。こりゃマジメだよ。多分、彼女はおれの基準では「いいやつ」だと思う。

あと不満なのは、こずえとのエピソードをもう少し描いた方がよかったんじゃないか。特に、原作にある「生まれながらに恵まれている側」にいる彼女がなぜああいう心持ちになっているのか、を。あれだと単なる「ゆとり世代」にしか見えない。あの女優さんキレイだし、もっと彼女とのカラミが欲しかったなぁ。

ほか、「窪塚洋介はいいが、もうすこし端正なキャラの方がよくね?」「寺島しのぶはいいが、なんで原作と年齢を変えた?」「桃井かおりはすげえ」「蜷川実花はやっぱり写真家だ」などあるが、墓参りで熱射病っぽくて浮かれていて、どんどん流れていくのでやめておきます。見て損はないと思う。是非、沢尻エリカのマジメさを感じてください。

 

【2020年6月追記】そして去年、沢尻エリカは麻薬で捕まりやがった。